2010/03/13

『インビクタス』は途方もないおバカ映画


そしてそれがクリント・イーストウッドの手によるものだということに驚きを禁じ得ない。
たしかに『チェンジリング』『グラン・トリノ』と来て何かしらの変化は感じられたけども、これまでこの監督の映画に張り付いていた死の臭いがここまで希薄だとは思いもよらない。それはむしろネルソン・マンデラひとりに集約されていて、映画自身はあのポスターのように白く晴れわたっている。

これはイーストウッドを知るものとしては極めて異例の事態で、あの、素晴らしい出来だが重く、重すぎる『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』と同じ監督が撮ったとはにわかに信じがたい真逆の地点に来てしまった(80歳!)。

で、ここからが面白いのだが、映画自身は「ネルソン・マンデラ」「南アフリカ」「黒人初の大統領」「ワールドカップの利用」というキーワードから連想される政治性など、何の意味もなさないとばかりにひたすら我々のステレオタイプな想像力から身をかわしつづける。

そしてジャンボジェット機と、ラグビー・ワールドカップ決勝の舞台となるスタジアムが遭遇する事態がおとずれる時、掲題の言葉をつぶやくことになろう。なんだこのおバカ映画は、、、と。

ひとつだけ言えるのは、『アバター』を見てわかった風を気取ることより、『インビクタス』の運動感と楽観性にひたすら圧倒されなにも口にできなくなる方が人生に華を添えよう。
イーストウッドは何を考えているのか全くわからない。ただ圧倒的に面白い映画だけが存在する。
またこの圧倒的に面白い映画は、政治性ではなくネルソン・マンデラの人間性に支えられていることも記しておきたい。

そして映画館に行こう。タランティーノの『デス・プルーフ』と同様、TVでどれだけこの面白さを「体感」できるかははなはだ疑問なのだ。


(イーストウッドファンにはおなじみの、この監督の作家性の1つである「傷ついた肉体」がどうなったか。何しろ前作『グラン・トリノ』では自ら終止符を打ってしまったわけだが、期待は裏切らない。むしろこの映画の題材との関連性に驚く。
で、次回作『Hereafter』もマット・デイモン主演らしい。今後イーストウッドの分身はこの人が務めるのか)


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